知力だけではない
私の勤める会社の海外の工場での出来事です。プロジェクトも山場をむかえ、私は上司と部下の2名の外国人とともにその現地工場に赴きました。ジョイントでプロジェクトに参画している日本の会社の日本人のプログラムマネージャーも同席しての会議でした。現地に派遣されている欧米人のエンジニアリングマネージャーも一緒です。
- ある開発プランの検証責任をめぐっての議論です。現地のエンジニアリングマネージャーがその日本の会社の日本人マネージャーにまくし立てます: I don't understand why you cannot undertake this assignment. We have agreed with the roles and responsibility between you and us and it clearly states that it is your responsibility. So you are the party who signs off this plan! Who else can do it? No one. It's you. OK?
- 同席していた私の上司・部下ともに「そうだ、そうだ」というような顔をして追い討ちをかけます。彼らの言っていることは私から見ても正しく、一遍の間違いも見当たりません。彼らは誇らしげに勝ち誇ったように「したり顔」で攻め続けます。その背景には「こんな簡単なロジックがなぜ分かってもらえないのか、なぜすっきり回答が出ないのか」というイライラが見え隠れします。
- みているに、その日本人はこの問題点の背景もよく知らないまま議題に直面し当惑しているようです。おそらく彼の部下がworking levelで現地と話していた内容らしく、彼にはしっかりとした背景の認識ができていないようです。
- じっと黙っていた私は「これではまとまるものもまとまらない。それどころかせっかくまとめ上げた責任分担の是非にまで話が及べば、このプロジェクトは間に合わない」と思いました。「Let me talk to him in Japanese for a minute」といって一端議論を中断させました。外国人たちはOKといって休憩室のほうに移動していきます。しばらく彼と日本語で話をした後、私は休憩室の方に移動しました。
- 「How did it go?」、待ってましたとばかりにどうなったか聞いてきます。私はそれには答えずに言いました、「Your western negotiation style sometimes just let him close the door」。きょとんとしたような顔をしてみんなが私を見ます。
- ポイントはこうです。まくし立てた欧米人のエンジニアリングマネージャーは頭もよく、口も立つし、論理的です。言っていることにも間違いはありません。でもnegotiationは理論で勝つだけではありません。特に他文化とのcross culturalな協議では特にそうです。人を見る能力です。相手の気持ちを読む能力です。
- 今回の場合、調子に乗って攻め立てることで、その日本人は明らかに交渉のドアを閉じる方向にいきました。その微妙なドアの動きを察知して(半ば本能的に)戦略を変えるのも能力です。ただでさえ欧米流のnegotiation styleはアジア人側から見ると、give and take どころかtake and takeに響きがちです。彼らにはそのことにも気がついていない人がほとんどです。説明しても分かってもらえないことすら多いです。
- そんなことまで含んで、いわゆる「グローバルな環境下での能力」というのではと思ったしだいです。ちなみにその会議はそれからさらに2時間かけて事態は何とか収拾に向かい始めました。